安田浩一 『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』

在特会などという団体を自分でネットで追いかけるのはイヤだったが、本書で一通りの経緯を知ることができた。著者は、在特会に批判的なスタンスを取りながらよく取材したなあと思った。

本書では、在特会の主張や行動がいかに正当性を欠いているか説明している。たとえば、在日特権だとされているものは旧宗主国が旧植民地の国民に保証すべき当然の権利である、とか。なので「彼らがあんなに言うなら何か根拠があるのでは?」と思ってしまうような人が、どのような反論が成立するのか知るためにもいい本だと思う。こういう話はまともな人は問題外という態度を取りがちで、意外とネットに見あたらないので。

このような集団が生まれてきた背景としては、(1)経済停滞が続き、非正規雇用が増加し、自分の所属にアイデンティティを持てない、人生でいい目を見ていないので、その社会を破壊したいと感じる人が増えている (2)戦後民主主義への反発もあり、戦後民主主義に守られていい思いをしていると思われている公務員や大手メディアといった左翼的なものに対する反発が蓄積している (3)在日コリアンについては、そういう左翼的なものに守られている、発言権がある、日本人の仕事や福祉を奪っている、とみなされている。また日韓共催のワールドカップの時の韓国人の反応など、中国・韓国にも日本人に反感を持ちそれを表現する人が一定数いるので、それを見て反発した あたりだと書かれている。

上記の分析はまあそうだろうと思うのだけど、街宣でかなりひどい罵詈雑言を吐いていながら、個別に取材すると普通の若者である、といった記述が多く、いったい何が彼らの攻撃性スイッチを入れるのかなあと思った。他者に向かってひどいことを言ったら相手が傷つくという人間として当然の回路が、外国人相手だからといってどうして切れるのか、と。本書では、自分たちこそが被害者だと思っていることに加え、同じ団体の仲間同士の暖かい人間関係や、何か目立つことをしたらネット経由も含め反応があることに夢中になっているのだという解釈だけど、そこまでフィードバックを受けることに夢中になるものなのか。

本書の内容からやや離れるが、外国人に対する排斥ならば、北方領土問題のあるロシアや、日本に基地を持つアメリカがどうして対象にならないのかと考えた。単純に白人コンプレックスもあるだろうが、中国や韓国の人たちが、外見的に日本人と見分けがつかないことはポイントの一つだろうと思った。彼らは、自分たちに批判的な人間に対して「おまえも在日だろう」みたいな言い方をする。外見的には日本人と変わらない人たちが、日本人に混じってひそかに権力を握っていて攻撃してくる、という考えが彼らのもつ妄想体系にフィットするのだろう。だから、彼らが在日特権と呼んでいるものは、日本名を名乗れるとか、一見日本人と同じように振る舞える権利なのであって、それを攻撃することにもつながる。

そういう意味ではいわゆる放射脳の人も似ていると私は思っていて、放射性物質という目に見えない臭いもしないが毒性のあるものに日本は侵されていて、あらゆる健康問題を放射能と結びつけて考え、パンダの赤ちゃんが死んでも放射能のせい、みたいな。こういう症状って精神科的な治療の対象になるのかなぁ、などとも考えた。